畑に植えているレモンの木が、ずいぶん大きくなってきました。
枝があちこちへ伸び、実もいくつか付いています。
植物が元気に育っていること自体は嬉しいのですが、こうなってくると一つ困ることがあります。
どの枝を切ればいいのか、分からない。
園芸の本やウェブサイトを調べれば、「内向きの枝を切る」「交差枝を整理する」「風通しをよくする」といった説明は出てきます。
しかし、初心者にとって本当に知りたいのは、もう少し具体的なことです。
「では、この木の、どの枝を切ればいいのか」
ということです。
AIにレモンの木を見せてみた
そこで、レモンの木全体をスマートフォンで撮影して、画像を認識できる生成AIに見せてみました。
いわば、自分の木を使って簡単なAI植物診断を試してみたわけです。
するとAIは、葉の状態や枝の伸び方、実の付き方などから、木そのものは概ね順調に成長していると評価しました。
そのうえで、現在は夏なので大きく切り戻す必要はなく、株元から出ている細い枝、内側へ伸びている枝、他の枝と交差している枝などを軽く整理し、本格的な樹形づくりは翌春に行う方がよい、と提案しました。
「剪定 AI」という言葉からは、樹木の写真を見せればAIが自動的に正しい切り方を教えてくれるようなものを想像します。しかし実際には、季節や樹齢、木の状態などを踏まえて、「今はあまり切らない」という判断をすることも剪定の一部なのでしょう。
ここまでは、インターネットで園芸情報を検索することと、それほど大きく変わらないかもしれません。
面白かったのは、その次でした。
では、写真に切る場所を描き込んでほしい
と頼んでみました。
AIは元の写真をもとに、
- 今切る候補
- 春に切る候補
- 残して育てたい枝
を色分けして、写真の上に示しました。
文章で「内向枝を切りましょう」と説明されるのと、自分の木の写真に「この枝です」と示されるのとでは、理解のしやすさがまったく違います。
AIによる剪定アドバイスの価値は、答えそのものよりも、「どこを見ているのか」を視覚的に示せることにあるのではないか。
そんなことを考えました。
そして、これは園芸以外にも使えるのではないかと思いました。
AI植物診断から「植物を育てるAI」へ
植物とAIの組み合わせ自体は、すでに珍しいものではありません。
例えばPictureThisのようなサービスでは、植物を撮影するとAIが種類を判定し、調子の悪い部分を撮影すれば原因や対処法についての情報を得ることができます。
現在のAI植物診断や植物管理アプリには、植物の識別、病害の診断、水やりや施肥のリマインダーなど、すでに多くの機能があります。
「観葉植物 AI」「植物 診断 AI」と検索すれば、こうしたサービスをいくつも見つけることができます。
しかし、生成AIの発展によって、もう一段違う使い方が可能になりつつあるように思います。
それは、
「この植物一般について教えてくれるAI」から、「私が育てているこの一株について考えてくれるAI」への変化です。
例えば、自宅のローズマリーをアプリに登録します。
購入したときに一枚撮影する。
一か月後にまた撮影する。
半年後にも撮影する。
するとAIは、植物の種類だけではなく、
- 前回より枝葉が増えた
- 新しい葉の状態が以前と違う
- 株が光の方向へ傾いている
- 鉢に対して株が大きくなってきた
といった変化を見ることができます。
さらに、
- この枝は残す
- この位置で剪定する
- この茎を支柱へ誘引する
- そろそろ植え替えを検討する
と、自分の植物の写真の上に直接アドバイスを表示することも考えられます。
特に観葉植物とAIの組み合わせでは、病気になってから診断するだけでなく、日々の成長そのものをAIと一緒に観察するという使い方が考えられます。
これは植物図鑑というより、植物のカルテに近いものです。
AIが植物の成長を覚えている
この仕組みで重要なのは、一回の画像診断ではありません。
時間です。
例えば一株のローズマリーについて、
- 2026年4月 購入
- 2026年6月 新葉
- 2026年8月 剪定
- 2026年10月 支柱設置
- 2027年4月 植え替え
という記録が残っていく。
一年後には、
- 一年前と比べて株全体がこれだけ大きくなりました
- 昨年剪定した場所から新しい枝が伸びています
- 前年の同じ時期と比べて葉の密度が高くなっています
ということまでAIが教えてくれるかもしれません。
そうなるとAIは、植物について質問する検索装置ではなくなります。
一緒に植物を見続けている存在
になります。
AI植物診断も、一枚の写真から病気や植物名を判定するだけではなく、過去の写真や手入れの履歴まで含めて「この植物がどう変化してきたのか」を見る方向へ進むことができるはずです。
植物を育てる楽しみそのものにも、少し変化が生まれるのではないでしょうか。
華道にも使えるのではないか
剪定について考えているうちに、もう一つ思いついたことがあります。
華道です。
例えば生け花の作品を撮影すると、AIが、
- 主枝が左上へ強く伸びている
- 中央に花材が集中している
- 右側の余白が小さい
- この葉を一枚減らすと奥の枝の線が見える
といった分析をする。
そして写真上に、
- この枝を少し短くする
- この花を少し左へ動かす
- この葉を取る
といった候補を描き込むことができます。
もちろん、ここには難しい問題があります。
剪定には、日照、風通し、収量、樹形など、ある程度客観的に説明できる目的があります。
一方、華道には「美」があります。
しかも、単純な左右対称を美しいとするような一般的な画像評価をそのまま適用すれば、日本の華道が重視してきた非対称性や「間」を誤って評価する可能性があります。
流派によっても考え方は異なります。
したがってAIが、
この作品は78点です
と評価するような使い方には、あまり意味がないように思います。
むしろ、
「この作品にはこういう特徴があります。ここを変えると、このように見え方が変わります」
と提示する方が面白い。
美を決めるのではなく、美について考える材料を提示するAIです。
剪定と華道は、意外と似ている
ここで少し不思議なことに気づきます。
果樹の剪定と華道は、一見するとまったく違うものです。
しかしAIから見ると、かなり似た問題でもあります。
植物を認識する。
枝を見る。
葉を見る。
花を見る。
それらが空間の中でどのような関係になっているかを見る。
そして、
切る。残す。動かす。
という判断をする。
果樹農家なら「この枝を切る」。
庭師なら「この枝を残す」。
盆栽家なら「この枝を曲げる」。
華道家なら「この枝を生かす」。
対象は同じ植物でも、目的によって判断は変わります。
つまり「剪定 AI」を本当に実現しようとすると、単に枝を画像認識するだけでは足りません。
その人が植物をどうしたいのかまで理解する必要があります。
そして、その判断には長年の経験によって身につけた知識が含まれています。
熟練者には「見えている」
ものづくりの世界でも、これと似たことがあります。
大工が木を見る。
農家が作物を見る。
料理人が魚を見る。
初心者には同じように見えているものでも、熟練者には違いが見えています。
そして熟練者は、
- ここは切った方がいい
- これはまだ触らない方がいい
- この材料はここには使わない方がいい
と判断します。
ところが、その理由を完全に言葉で説明できるとは限りません。
経験によって獲得された、いわゆる暗黙知です。
これまで、この種の知識を伝えるには、熟練者の隣で仕事をすることが重要でした。
「見て覚える」という方法です。
生成AIと画像認識が興味深いのは、この「見る」という部分にコンピューターが入り始めたことです。
AIは正解を出すためだけのものではない
もちろん、AIの判断が熟練した農家や華道家を超えるとは限りません。
植物の状態は、一枚の写真だけでは分からないこともあります。
土の状態、気温、湿度、日照、過去の管理履歴など、画像以外の情報も必要です。
AI植物診断が病気を見落とすこともあれば、剪定AIが間違った枝を切るよう勧める可能性もあります。
だからこそ、「AIが専門家の代わりになる」という発想だけでは、この技術の可能性を狭く捉えてしまうように思います。
むしろ興味深いのは、
専門家が見ているものを、初心者にも見えるようにすること
ではないでしょうか。
例えば剪定の先生が、
この枝を切る
と判断したとします。
AIはその前後の画像を比較し、
内側へ向かっていた枝を取り除くことで、中央に空間を作った
と説明する。
それを何百、何千という事例について蓄積していけば、「熟練者がどこを見て判断しているのか」を少しずつ可視化できる可能性があります。
AI植物診断の先にあるのは、単なる診断精度の向上ではなく、人間が植物を見る技術そのものを支援することなのかもしれません。
AIが「知識」ではなく「見る力」を共有する
生成AIについては、文章を書く、画像を作る、プログラムを書くといった能力が注目されます。
しかし個人的には、これから非常に面白くなるのは、
AIが人間と同じものを見ながら話すこと
ではないかと思っています。
教科書に書かれた一般論ではなく、
- あなたの目の前にある、この木
- あなたが生けた、この花
- あなたが作っている、この製品
について一緒に考える。
そして画面上に、
「私はここを見ています」
と示す。
これは単なる情報検索とはかなり違う体験です。
「AI植物診断」や「剪定 AI」といった現在の比較的具体的な用途も、その入口の一つなのだと思います。
「どこを切る?」という小さな問いから
今回のきっかけは、畑にある一本のレモンでした。
「これ、どこを切ればいいのだろう」
という、ごく小さな疑問です。
しかし考えていくと、その向こうには農業、園芸、観葉植物、華道、盆栽、造園、さらにはものづくり全般へとつながるテーマが見えてきました。
AIは、すべてを自動化するためだけの技術ではありません。
人間が長い時間をかけて身につけてきた、
- どこを見るのか
- 何を残すのか
- なぜそう判断するのか
を、別の人に伝えるための技術にもなり得ます。
熟練者の仕事を奪うAIではなく、熟練者に見えている世界を、他の人にも少しだけ見えるようにするAI。
そんな使い方が、これから様々な分野で生まれてくるのではないでしょうか。
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