財布は均等には傷まない
長く使った財布を見ると、すべての部分が同じように劣化しているわけではありません。
- 角が擦れる。
- 折り曲げ部分が柔らかくなる。
- カードポケットが伸びる。
- 糸が切れる。
- ファスナーの動きが悪くなる。
- 引き手が壊れる。
- 内装が汚れる。
財布そのものは一つの製品ですが、実際には異なる負荷を受ける部品の集合です。
にもかかわらず、多くの財布はそれらを一体化して作ります。
一部分だけ寿命を迎えても、交換することが難しい。
ここに「修理を前提に設計する」余地があります。
1 最初に傷むのは角
財布をポケットやバッグから出し入れすると、外周、とりわけ四隅には摩擦が集中します。
机へ置く。
バッグへ入れる。
ポケットから引き出す。
毎日繰り返す小さな接触によって、角は少しずつ変化します。
だから外殻には、ある程度摩耗そのものを受け入れられる素材を使いたい。
今回、一枚革のシェルを考えている理由の一つです。
傷を完全に防ぐのではなく、傷が素材の表情になっていくものを使う。
ただし、角の構造が複雑になれば修理は難しくなります。
できるだけ切り替えを減らし、一枚の素材で包む。
これはミニマルな見た目のためだけではなく、故障点そのものを減らすためのデザインでもあります。
2 次に考えるべきは糸
革より先に糸が切れることがあります。
これは必ずしも悪いことではありません。
革同士を接着剤で完全に貼り合わせ、さらに複雑な縫製で閉じてしまえば、分解は難しくなります。
反対に、修理する場所をあらかじめ決め、その部分をほどけば内部へアクセスできるようにする。
糸が切れたら、もう一度縫う。
内部部品を交換したければ、一度糸をほどいて交換し、また同じ場所を縫う。
つまりステッチには、
固定する機能と、分解するためのインターフェース。
という二つの役割を持たせられます。
これはかなり重要な部分です。
3 カードポケットは「壊れる」というより変形する
カードを何度も出し入れすると、ポケットは少しずつ変化します。
特に革の場合、繊維が伸びて保持力が弱くなることがあります。
ここは、革を厚くすれば解決するという単純な話ではありません。
厚くすれば財布全体が大きくなるからです。
そこでカード収納には、薄く構成できるX-Pacなどの素材を試そうとしています。
そして、カードポケット自体を交換可能にする。
一枚のカードポケットが伸びたために、財布全体を捨てる必要はありません。
4 小銭入れは独立して考える
小銭入れは財布の中でも特殊です。
硬貨そのものが重く、内部で動き、汚れも溜まりやすい。
さらにファスナーを使えば、そこに機械的な寿命も加わります。
つまりカード収納とは負荷の性質がかなり違います。
そこで今回の構想では、小銭入れをシェルの外側へ独立して配置することを考えています。
これは使いやすさだけが理由ではありません。
傷んだときに、財布本体を大きく分解せず交換・修理できるからです。
特にファスナーは、革本体より先に寿命を迎える可能性があります。
ならばファスナーを含む部分そのものを、交換可能な単位として設計する。
「ファスナー交換修理」ではなく、ファスナーを含む小銭ユニットを交換する。
古いユニットは工房でファスナーだけ交換して再利用することもできます。
そうすれば、ユーザー側の修理時間も短くできます。
5 折り曲げ部分
財布を開閉するたび、同じ場所が曲がります。
ここも重要な負荷点です。
厚い革を何層も重ねれば、折り曲げ部分はさらに厚くなり、革へ大きなストレスがかかります。
一枚革のシェルにしたい理由がここにもあります。
折り曲げ部分には余計な縫製や部材をできるだけ置かない。
曲がる場所は、素直に曲がらせる。
デザインで強制するのではなく、素材の性質を利用する。
修理可能性は「分解できること」だけではない
ここまで考えると、Repair First Designにはもう一つ条件があることが分かります。
交換できるだけでは不十分です。
たとえば特殊な金具で固定して、専用工具がなければ分解できない。
あるいは独自部品が廃番になった瞬間に修理できなくなる。
それでは本当に修理可能とは言いにくい。
- できるだけ一般的な糸。
- 一般的なファスナー。
- 単純な型紙。
- 単純な縫製。
- 少ない部品。
という方向を考えています。
高度な機構によって修理可能にするのではなく、
構造を単純にすることで修理可能にする。
こちらの方が長期的には強いはずです。
修理跡を消す必要もない
修理した場所の糸だけ色が違っていてもいい。
新しく交換したX-Pacだけ色が違っていてもいい。
10年前の革に、新しい部品が付いていてもいい。
むしろ、
「ここを直した」
という履歴が製品に残っていく。
新品時が完成形なのではなく、使う人との時間によって完成していく。
そう考えると、修理は製品を元に戻す行為ではなくなります。
修理するたびに、その人の道具になっていく。
そんな財布が作れないかと考えています。
だから、まず壊れ方を知る。
丈夫な素材を探すことよりも先に、
どう壊れ、どう直すのかを設計することにします。
REPAIR FIRST DESIGN / FAILURE STUDY 01
製品の寿命を「壊れないこと」だけで考えず、どこが先に傷み、どう交換・修理できるかという視点から財布の構造を検討しています。
