壊れない財布ではなく、直せる財布をつくる。

財布は、長く使える道具のように見えて、実はそうでもありません。

革そのものはまだ使えるのに、糸が切れる。内装が破れる。ファスナーが壊れる。カードポケットが緩くなる。角だけが極端に擦れる。

そのとき、多くの場合は財布そのものを買い替えます。

では、もっと丈夫な財布をつくればよいのでしょうか。

少し違う方向から考えてみることにしました。

壊れないものをつくるのではなく、壊れても使い続けられるものをつくれないか。

「丈夫であること」と「長く使えること」は同じではない

長く使える製品を考えるとき、まず思いつくのは耐久性です。

厚い革を使う。太い糸で縫う。頑丈な金具を使う。

もちろん、それらは大切です。

しかし、どれほど丈夫な素材を使っても、製品を構成するすべての部品が同じ速度で劣化するわけではありません。

革、布、糸、ファスナー、ゴム、金具。

それぞれ寿命が違います。

財布全体としてはまだ十分に使えるのに、一つの部品が寿命を迎えたことで製品全体が使えなくなる。

ならば、本当に考えるべきなのは耐久性だけではないのではないか。

壊れたあと、どうなるのか。

そこまで含めてデザインする必要があると考えました。

修理を「後からすること」にしない

一般的に修理とは、製品が壊れた後に考えるものです。

壊れた財布を職人に持ち込み、「これは直せますか」と相談する。

しかし、製品を作る段階から、

「ここはいずれ摩耗する」

「この糸はいつか切れる」

「このファスナーは革より先に寿命を迎える」

と分かっているのであれば、最初から交換しやすく作っておけばいい。

そこで考えたのが、Repair First Design――修理を前提とした設計です。

修理とは、設計の失敗を後から補うものではない。

最初から製品のライフサイクルに組み込むことができるのではないか。

財布を「一つの物体」として考えない

今回のコンセプトでは財布をいくつかの機能に分けて考えています。

  • 外側を守るシェル。
  • カードを保持する部分。
  • 紙幣を収納する部分。
  • 小銭を収納する部分。
  • そして、それらをつなぐ糸や留め具。

普通の財布では、これらが縫製によって一体化されています。

しかし機能として見れば、それぞれは別の部品です。

そこで、それぞれを独立して交換できる構造を考えています。

手仕事も目的にはしない

もう一つ考えていることがあります。

「ハンドメイドだから全部手縫いにする」という考え方です。

手縫いには、独特の美しさがあります。サドルステッチは耐久性にも優れています。

しかし、すべてを手縫いにすることが本当に最良なのか。

そうは考えません。

ミシンの方が合理的な場所はミシンで縫う。

摩耗しやすい場所、修理時にほどく場所、構造上重要な場所には手縫いを使う。

素材についても同じです。

革が適しているところには革。

薄さ、軽さ、耐水性が重要なところにはX-Pacなどの機能素材。

伝統的な技術と現代の素材を対立させるのではなく、必要な場所に必要なものを使う。

手仕事そのものではなく、なぜそこを手で縫うのかまで設計する。

長く使うほど、その人のものになる

修理できることには、もう一つ意味があります。

新品の状態を永久に維持する必要がなくなることです。

革には傷がつきます。

色が変わります。

角が丸くなります。

手に触れるところだけ艶が出ます。

それを劣化としてすべて消してしまうのではなく、使った時間として残す。

一方で、機能を失った部品だけは交換する。

そうすると、10年間使った財布は新品同様にはなりません。

古い外殻に新しいカードポケットが付いているかもしれない。

ファスナーは二代目になっているかもしれない。

糸の色も途中で変わっているかもしれない。

それでいい。

むしろ、その状態こそが長く使った道具の姿なのではないでしょうか。

まだ完成していません

今回掲載しているデザインは完成品ではありません。

Concept Studyです。

今回考えているのは、「絶対に壊れない財布」ではありません。

そんなものを作ることは、おそらくできません。

壊れることを受け入れたうえで、それでも長く使える道具を設計できないか。

壊れないことではなく、直せること。

完成させることではなく、使いながら更新できること。

その小さな実験をまずは始めてみます。


REPAIR FIRST DESIGN / CONCEPT STUDY 01
このプロジェクトは現在構想・試作段階です。設計、素材、構造は今後の検証によって変更していきます。